「ブラッド青年は凄腕のエンチャント師だったのかあ……」
「儂もそれは見抜けなかったのお。なにしろ特化した能力の持ち主は他の能力は極めて低かったりするからなんじゃがな……」「ですよね……」
私と小次狼さんはオレンジ色に染まる街並みの中、レンガ道を1人陽気なステップを踏んでいくクロウを見つめる。
そう、この元気っこクロウを例に例えるとしよう。
彼女は見ての通り、魔法や俊敏さは極端に長けているが、どうしようもない方向音痴とか素直過ぎる性格とか何かしら重大な欠陥が目立つわけだ。
だが、ブラッド青年はそれに比べ完璧すぎる。
家柄も良く、賢く、お金持ちだし、容姿端麗で多分身体能力もほどほどに高そう。
と、他にもありそうだけど兎に角欠点が見つからない。
更に国宝級のエンチャント師とか流石に能力の盛りすぎである。
「小次狼さんは何が引っ掛かってるの?」
「一言で言うとペンダントじゃな……。あとは深くは言うまい」「確定情報でないものを腐すのは、仕事柄上信用失うものね……」
「そう、当然じゃな」私と小次狼さんは思わず笑顔で互いの顔を見合わせる。
そう、だから私は小次狼さんを信用しているし、きっと小次狼さんも同じだろう。
「ブラッド青年との商談は此処に滞在しているから後回しで良いとして、今はエターナルアザーの長の手掛かりを探すのが先よね」
「そうじゃな……」(というのも、私が組織に戻る戻らないや今後の商売の方法も長の生死でかなり変わってくるのよね。生きていたとしてもあれから百年経って考え方が変わっていれば……ね)
「ところで嬢ちゃん達は長の名前は知らないのかの?」
「え、ええ……。秘密主義だったのでおそらく組織の誰も知らないのかなと」「私も聞いて無いんですが……。あ、でも」
「でも?」私達はクロウの何か知ってそうな物言いに、思わずピタリと足を止めてしまう。
そう、クロウは長が信頼していた数少ない部下であり接している時間は私より遥か
(このままここにに滞在すると、また別の予期せぬ来訪者たちが来る可能性が高いかな……。もっとゆっくりしたかったけど、迷惑をかけるのは営業妨害になっちゃうしなあ……) ワインを飲み終わった私はクロウと目を合わせ、互いに無言で頷き会計を済ませることにする。「すいません、これお会計の代金。それと、これはご迷惑をかけたほんのお詫びです。ほんと、ごめんなさいね……」「め、滅相も無い。それよりもお怪我は?」「ないです。ごめんね、心配かけちゃって……」「い、いえ、こちらこそ! またのご来店をお待ちしてます!」 何も知らない身ぎれいな会計人の青年は、私達に心配の言葉をかけ深々とお辞儀をする。(まあ、詳細は流石に説明出来ないし、本当にごめんなさいね) ということで、私達はお店にお詫びの一言、更にはその迷惑料と食事代の金貨数枚と少し多めのお支払いを済ませ、早々にお店を出る。「……クロウ、小次狼さんの居場所は分る?」「うーん? 実はお店から小次狼さんが出て行かれた時から魔法感知してるんですが、分からないんですよね……」「えっ!」「ああ、お亡くなりになって生命反応が無いとかではなくて、小次狼さん自体が元々魔法感知対策で何かしてらっしゃるみたいですよね」「そっか、流石は小次狼さん。心配ではあるけど、先に宿に帰宅して待ちましょうか」「そうですね! あの程度の相手なら私でも返り討ち出来ましたしね」「あっ、貴方その物言い、もしかして店内では何かカウンター魔法を詠唱済みだったの?」「はい! 簡単な防御魔法は常時かけてますので!」(よくよく考えたらこの子も、もうエターナルアザーの上位幹部だし、すっかり一人前になっているのよね……) 私はこの時百年という年月の重さをしみじみと実感してしまった。「じゃ、こんな時は合流しやすい場所に移
「ふむ、まあこれで花屋に聞く内容はあらかた決まったかのお……」(よくよく考えると私達は小次狼さんが具体的に何の確認をしにいくのかは知らないのよね……) とか考えていると目の前に、花屋リランダの看板が見えて来るので急いで中に入る。 店内にはカラフルに咲き誇ったチューリップなど丁度季節ものの花や、マジッアイテム温室で栽培された花々などが綺麗に陳列されていた。「ほお、中は喫茶店並みに広いのお……」「あ、レイシャ様、オシャレな小ばさみも売ってますよ!」「そうね。あ、この小動物の陶磁器も可愛らしいね」 王室ご用達であるからか洒落た小物や鉢なども販売されており中々センスが良く、「赤レンガで作られた小洒落たお店」 印象はそんな感じだ。「おや? 貴方達は先程店の前に立たれていた御仁の知人ですか?」 すると、白のエプロンを着た、チョビ髭のちょっと小太りの愛層が良いオヤジさんに私達は話しかけられる。「ああ、閉店間際にすまないね。丁度知人のイハール殿とそこでお会いしたもので、少しばかりお話をしていたのですよ」「えっ! ああ経営主様とお知り合いでしたか! これは失礼を……」 ホウキで店内を掃除していたオヤジさんは申し訳なさそうに、こちらに向かって軽く会釈をする。 その様子に少し、ほんの少しだけ眉を潜めた小次狼さんは少し間を置き、再びオヤジさんに話しかける。「だいぶ前の話になりますが、紫色のヘリオトロープを最終的に頼まれたのはイハール殿本人ですかな?」「は、はあ、よくご存じで……」(え、ええっ!) 私は小次狼さんと花屋のオヤジさんの会話の内容に驚き、思わず声がでてしまいそうになる。「ふむ、では最後にもう1つ。その話をイハール殿がされたのはもしや夕方以降では?」「は、はあ、確かにそうですが。よくそんなことまで、よくご存じで……。流石は知人であられる」「いや、なに今後商売をしていく中で、イハール殿がどんな方か知りたくて色々店主殿に聞いた次第です。お仕事のお邪魔をしてしまい申し訳ない……」 小次狼さんはそんなオヤジさんに対し、にこやかに笑い軽く会釈するのだ。(う、上手い! 流石小次狼さん……) 最小の会話で最大の情報を引き抜く。 流石は元忍びの統領、トーク能力も超一流である。「あ、お話中すいません! この子リスと小鳥さんの陶磁器を1つずつ下さい
「ブラッド青年は凄腕のエンチャント師だったのかあ……」 「儂もそれは見抜けなかったのお。なにしろ特化した能力の持ち主は他の能力は極めて低かったりするからなんじゃがな……」「ですよね……」 私と小次狼さんはオレンジ色に染まる街並みの中、レンガ道を1人陽気なステップを踏んでいくクロウを見つめる。 そう、この元気っこクロウを例に例えるとしよう。 彼女は見ての通り、魔法や俊敏さは極端に長けているが、どうしようもない方向音痴とか素直過ぎる性格とか何かしら重大な欠陥が目立つわけだ。 だが、ブラッド青年はそれに比べ完璧すぎる。 家柄も良く、賢く、お金持ちだし、容姿端麗で多分身体能力もほどほどに高そう。 と、他にもありそうだけど兎に角欠点が見つからない。 更に国宝級のエンチャント師とか流石に能力の盛りすぎである。「小次狼さんは何が引っ掛かってるの?」 「一言で言うとペンダントじゃな……。あとは深くは言うまい」「確定情報でないものを腐すのは、仕事柄上信用失うものね……」 「そう、当然じゃな」 私と小次狼さんは思わず笑顔で互いの顔を見合わせる。 そう、だから私は小次狼さんを信用しているし、きっと小次狼さんも同じだろう。「ブラッド青年との商談は此処に滞在しているから後回しで良いとして、今はエターナルアザーの長の手掛かりを探すのが先よね」 「そうじゃな……」(というのも、私が組織に戻る戻らないや今後の商売の方法も長の生死でかなり変わってくるのよね。生きていたとしてもあれから百年経って考え方が変わっていれば……ね)「ところで嬢ちゃん達は長の名前は知らないのかの?」 「え、ええ……。秘密主義だったのでおそらく組織の誰も知らないのかなと」「私も聞いて無いんですが……。あ、でも」 「でも?」 私達はクロウの何か知ってそうな物言いに、思わずピタリと足を止めてしまう。 そう、クロウは長が信頼していた数少ない部下であり接している時間は私より遥か
数分後、私達はコーヒーハウス【ブルーフラワー】で美味しくコーヒーを飲みながら個室で談話していた。「……あ、やっぱりレイシャさんはクロウさんの元上司でしたか」「あはは……。貴方の事だから大体もう察しはついてるでしょ?」「ええ、まあ……」 すました顔でホットコーヒーを飲むブラッド青年。(まあ、クロウと接点があった時点で私はもうピントと来たんだけどね)「クロウさんとは仕事で去年からのお付き合いがありましてね……」 「ですね!」「え? 宝石関係の取引って事?」(クロウは確か貴金属関係の選美眼はからっきしだったはず……?) 私は思わず眉を潜めてしまうのが自分で分かり、それを誤魔化す為に慌ててホットコーヒーを飲む。 そして横目で小次狼さんを見ると、腕組みし眼を閉じて私の隣に座っている状態だ。(この感じだと、儂はしばらく黙っておくから好きにやってくれってことだろうな……) 小次狼さんの先程から変わらない態度を見て、そう私は理解した。「そうです。クロウさんは魔法のスペシャリストであられるので、魔石やマジックアイテムの識別能力が高く大変助かってます」「えへへ、それほどでも……」「成程、クロウは魔力感知能力も高いからそこら辺の嗅覚が特化して凄かったよね……」(それでブラッド青年はクロウの特化能力を高く買って商売相手に選んだわけか) 私はこの時、クロウが言っていた『怪盗を辞めてその能力を別の方向に生かす派』の話が本当である事を悟った。(そっかあ、私が組織から離れて百年、クロウも自分で色々仕事出来る能力を覚えたんだなあ) 私は思わず嬉しくなり、深く頷いてしまった。 「そうだ! 聞いて下さい、レイシャ様! イハールさんはですね、やり手の商人であり
それからしばらくして、小次狼さんを加え、今度は3人で話し合っていく。「嬢ちゃん達すまなかったな……」「いえ……」 (小次狼さんのことだから、おそらくこの前の仕事の関係で相談しにきたんだろうけど) そんな事を考えながら静かに紅茶を飲んでいる私に対し、今度はクロウが驚きの一言を言い放つ!「流石、【禅国の雷龍】。雷気を使った独特の能力で私の気配を察知してましたか……。ということはイッカ国の美術館の時からですか……」「え! そ、そうなの小次狼さん?」 「そうじゃな、儂は一度覚えた気配は忘れんからのお……」「さ、流石禅国の元忍び頭です……」 感服したクロウは小次狼さんに対し、深々と頭を下げる。「そんなにかしこまらなくてもよい。それよりも儂が今日此処に来たのは偶然ではく、クロウ嬢がこちらに来訪したのを儂が感知したからじゃ」「……という事は小次狼さんはクロウにも話があるって事?」 小次狼さんはティーカップを手に持ち、静かに頷く。「どんな話ですか?」「実にタイムリーな話でな、嬢ちゃん達が話している【エターナルアザー】の長の手掛かりの件じゃ」「え、ええっ!」 このビックリの内容に、私とクロウは盛大に口に含んだ紅茶を噴きし、むせてしまう。「確か20年前の事じゃったかの? 儂は【エターナルアザー】の長らしきものがイッカ国に来訪したことを小耳に挟んだことがある……」「ゴホッゴホッ! えっ! じ、じゃあ⁈」「詳しい話はあとじゃ! 時間が勿体ないし、支度してさっさといくぞい!」 はい、ということで数時間かけて、あっという間にイッカ国に来ましたよっと! 私達は手荷物を宿に置き、城下町に歩いて向かう。 青空が広がる
「レイシャ様!」(そうそう、こんな感じで呼ばれてたっけ……。って、あれ? 本当にクロウの声が聞こえて来る気がするんだけど?) 私が後ろを振り向くと、そこには長い黒髪にピンと張った長い耳、やや丸みを帯びた愛らしい顔の女性が手を振りながら駆け足でこちらに向かって来るのが見えた。 少し濃ゆめの眉、垂れ目で大きな二重瞼、上目遣いで私見つめる透き通った茶色の瞳……。「あ、貴方もしかしてアタナシア=クロウ?」「はい! お久しぶりですレイシャ様!」 漆黒のワンピースを着た彼女はその布地を風ではためかせ、私にしっかりと抱き着いて来て、私達はおよそ百年ぶりの奇跡と感動の再開を果たすのだった。 それからしばらくして、私は「申し訳ないけど昔の客人が来たから」とマーガレット達に帰って貰い、自宅兼私の花屋の2階の応接間でクロウと色々話すことにした。 ソファに元気よく腰かけ、私が出した紅茶を美味しそうに飲むクロウ。「貴方、よく此処が分ったわね」「はい! 丁度仕事でイッカ国に滞在した時、美術館でレイシャ様の姿を拝見したんで!」(そっか、百年ぶりに他国にいったから偶然クロウに見つかっちゃったわけか……) あとは組織のコネクションがあれば、身元なんか簡単に調べがつくだろうしね。 「あ、拝見というか厳密に言えば、魔法感知で探したんですけどね!」「成程、貴方魔法のスペシャリストだからね……」 きっとクロウの事だから毎回仕事で広範囲のサーチを使ってたのだろう。(足を洗った身としては組織の仕事には極力関わりたくないし、正直仕事の内容は知りたく無いので聞かないでおこう) 私は陶磁器のティーカップを静かに自身の口元に運び、そんな事を考える。「……ところでクロウ。目的は私に合うだけ?」(それだけだと助かるんだけどな) 「勿論それがメインですが…&hel